第29回:カッター競技(その2 「総短艇」) « 個人を本気にさせる研修ならイコア

ホームサイトマップお問合わせ・資料請求
パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
サービス内容事例紹介講師紹介お客様の声コラム会社概要

第29回:カッター競技(その2 「総短艇」)

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を
復刻版としてメルマガに載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
退職後19年を経過した現在の私が当時を思い起こして感じていることを書かせて
いただきました。これまでのものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きした
ことを、特に明確な意図というものはなく、何となしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦「ふね」
(以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や
海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

護衛艦に搭載されていたカッターに比べてやや大型の左右6名ずつ12名で漕ぐ
ものが現在でも海上自衛隊の教育部隊に配置されています。江田島の幹部候補生
学校をはじめ、横須賀、呉、佐世保、舞鶴の各教育隊や術科学校などにあり、
候補生や練習員、学生等の体力、気力の練成とチームワークの醸成に役立てられて
います。カッターは、海上自衛隊だけではなく、東京海洋大学(旧東京商船大学、
東京水産大学)や他の水産学部を持つ大学などに今でもありますよね。
ボート競技を経験された方はわかるかと思いますが、私は「カッター競技」と
いうのは、究極のチームプレーだと思っています。

艇指揮(号令をかけます)、艇長(舵を取ります)を含めて14名が一体になら
ないと絶対に勝てません。カッターは一人ひとりが同じ力で左右均等に漕いで前に
進んでいくため、一人でも手を抜くと急に行脚(いきあし)が落ち、櫂(オール)
を引く手が重くなるのですぐにわかります。ましてや櫂(オール)を流したりしたら
それで一巻の終わりです。どんなにきつくても、苦しくても、尻の皮がむけても、
船を前に進めるためには絶対に手を抜くことができないのです。

江田島の幹部候補生学校には、海軍兵学校以来の伝統と言われる「総短艇」と
いう競技(?)があります。「総短艇」は、いつ何時に号令がかるのかわからない
もので、ある時は総員起床の前だったり、ある時は夕方の課外での体育活動中で
あったりします。
「総短艇」の号令がかかるや否や、それまでの作業、活動は一切やめて総員がカッ
ターを吊るしてある岸壁に走ります。
そこで、決められた役割と手順に従い、分隊ごとに力と息を合わせて、ダビッドと
いうカッターを吊ってある大きな支柱から、安全、確実、迅速、そして静粛に
カッターを降ろします。カッターが海面に降りたらすぐに総員が飛び乗って
沖合いにあるブイを回ってきます。戻ると今度は、反対にカッターの中を整理整頓
して、所要人員だけを残して全員が岸壁に上がり、ダビッドの元の位置にカッター
を引き上げます。この揚げ降ろしだけでもカッターそのものが重量物であるだけに、
かなりの危険を伴う作業なんです。元通りになり全員が整列したところで、
艇指揮が担当教官に「第○分隊、よろしい」と報告して終ります。
この「第○分隊よろしい」までの順位を争うのが、この「総短艇」なのです。
順位が付くとは言え、自衛隊の通例でトップが「勝ち」で後はみな「負け」
なんです。私の所属していた第27期一般幹部候補生課程第4分隊は、春の短距離
競技、秋の長距離競技のいずれにも優勝した漕力のある分隊だったのですが、
月に1回程度行われる総短艇には一度も勝ったことがありませんでした。
良く考えてみると、毎回、私が到着した時にはほぼカッターが海に降りていて、
「私が飛び乗るとすぐに出発したことが多かったかな・・・?」などと
思っていますが・・・。

次回は、私の原点でもある、防衛大学校におけるカッター競技についてお話します。

Copyright (c) 2024 e-Core Incubation Co.,Ltd. All Rights Reserved.  Web Produce by LAYER ZERO.