第63回:「暑さ、寒さの感じ方」 « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第63回:「暑さ、寒さの感じ方」

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を
復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、
以前に書いたものではなく、海上自衛隊退官後24年を経過してしまいましたが、
現在の私が思い起こし感じていることを書かせていただき、
今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしました。
前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図
というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。
「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。
むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、
主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいります
のであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

 1月中旬の寒波の到来で、日本各地に大雪が降り、東京近郊では降雪はなかったものの、かなりの寒さを感じられたのではないでしょうか。今回のお話は、一昨年の12月初めの話ですが、弊社の社員と彦根に某メーカーさんの工場見学とヒアリングのために出張した時のことです。朝、東京駅の新幹線口で一緒になると、彼女から、「あれ、コート着てこないんですか?」と怪訝そうな顔をされました。「きょうは、関東も関西も一日暖かいという予報だったよ」と私が言うと、「でも、もう12月ですよ」ということでした。列車の乗り降りや途中のホームでの待ち時間などに、私が寒いのではないかと心配をしてくれているのですが、「ほら、みんなコート着てますよ‥‥」とも言ってくれました。私自身は、きょうは暖かいという予報に対する自分なりの自信(思い込み)があるので何の心配もしていませんでしたが、その際に思い出したのは、遠い昔、初めて日本を離れたときに感じた驚きのことでした。

 私が初めて日本を出て海外の経験をしたのは、幹部候補生学校を卒業した後の遠洋練習航海でした。それはそれは、今思い出しても楽しい楽しい(厳しい・辛い!!)5ヶ月間でした。6月25日に横須賀を出港して(今は晴海から出港していますが、当時は美濃部東京都知事の時代であり、「自衛隊に都の施設は使わせない」などと言われて、晴海ではなく、横須賀の市営桟橋から出たのです)、最初の寄港地はハワイ、それからタヒチをまわってニュージーランド、オーストラリア、そして東南アジア諸国(シンガポール、インドネシア、タイ、フィリピン)とインド、パキスタンをまわり、11月11日に横須賀に入港しました。ハワイ、タヒチは常夏の国でしたが、8月のニュージーランド、オーストラリアは真冬でした。オークランド、ウェリントン、メルボルン、シドニー、フリーマントル(パース)などの街を歩いてみて感じたのは、人々の服装があまりにもまちまちであったことでした。寒そうに分厚いコートの襟を立てている女性の後ろから、Tシャツ姿の若者が歩いてきます。そして、その後ろには、コートは着ていませんがゆったりとしたセーター姿の人がいます。現地の日本人の方に聞いてみたところ、「そうですね、日本には衣替えという習慣があって、季節のある時期になると服装を替えるということが習慣化していますが、こちらの人は人それぞれの感じ方で服を着ているだけですよね」というものでした。日本では四季折々の区切りが比較的はっきりしており、それぞれに風物といったものがあります。とはいえ、シドニーは南緯33度です。北緯33度と言えば日本では福岡あたりで、北半球と南半球の違いはあるにしても日本と大きな差異があるとは思えません。このことについて、ある時まで私の中では、日本人は自分がどのように感じるかという感じ方よりも、その季節における常識的な服装や、周囲の人々との釣り合いなどを考えて服装を決めるんだ、ということで納得していました。それはそれで真実に近いひとつの仮説だとは思いますが、それからしばらく経ったある時に、それだけではないのでは、ということを感じたことがありました。

私が護衛艦隊司令部の対潜幕僚として勤務していた時、米海軍との協同訓練の実施に際して、米艦に連絡と調整役という名目でしたが、本来は戦術的な情報収集目的で2週間ほど乗艦していた時のことです。もう1名、私とは別に研修という名目で若手の3等海曹(下士官)君が同じ艦に乗艦していました。彼の艦が所属する護衛隊群司令部の首席幕僚から、「彼は英語もあまり得意ではないので、1日1回で良いので様子を見てやってください」と頼まれたこともあり、時々彼の居住区を訪ねました。「どうだい、調子は?」と聞くと、「寒くてしょうがありません、あと毛布が2枚くらいあるとありがたいです」ということだったのです。私自身もこれは寒いなと感じて、すぐに追加の毛布を手配しましたが、ふと横を見ると、隣のベットで一人の米海軍の下士官がパンツひとつで毛布も掛けずに眠っているではないですか。これには驚きました。やはりわれわれ日本人とは異なる肉食人種の身体的な特性なのでしょうか、日本人が寒いと感じるところでも寒く感じないようなのです。ですから、日本人は、多少の違いはあるものの、どちらかと言えばほとんどの人が同じように暑さ、寒さを感じているのに対して、彼らはその感覚がひとり一人全く違うということのようです。私がニュージーランドやオーストラリアで見た人々は、それぞれが暑さ、寒さをそれぞれに感じとってそれに合った服装をしていたのだと思います。melting potというかどうかは別にして、Physicalな面においても、やはり多様性の社会であるのだ、ということをあらためて感じさせられたところでもありました。

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