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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第13回:近代戦(洋上での戦い方)

※以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版としてメルマガに載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、今回から15年前に書いたものではなく、退職後19年を経過した現在の私が思い起こして感じていることを書かせていただきました。

これまでのものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦「ふね」(以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

 

みなさんは、海軍における本来の任務である近代の「洋上での戦い」というのはどのようなものと思っておられるのでしょうか。陸上での戦闘の様子というのは、映画やテレビなどでおおよそのイメージがついていると思いますが、海の上での戦いというのはなかなか身近に感じられないものと思います。「坂の上の雲」に出てくる日本海海戦などのように、戦艦同士が大砲を打ち合うなどということは、現代の洋上における戦いではすでにあろうはずもなく、太平洋戦争でその隆盛を極めた航空母艦を主体にした航空機相互による攻撃などというものも、現代においてはありそうに思えません。

では、現代の洋上での戦いというのはどのようにしてなされるのでしょうか。

昔々、といっても私が現役の頃ということですが、米海軍において「CWC(Composite Warfare Concept)」ということが盛んに喧伝されたことがありました。世は複合戦の時代なのです。1隻の護衛艦にとってみても、ひとつの作戦エリアの中で、対空戦(飛んでくるミサイルに対する対処)もあれば、対水上戦(自艦にミサイルを発射するプラットフォームである敵艦に対する対処)も、対潜水艦戦(自艦に魚雷やミサイルを発射するプラットフォームである見えない敵潜水艦に対する対処)も、そして、更には、電子戦(それら全般にかかわる電子兵器による妨害行為あるいは妨害行為に対する対処)というカテゴリーでも語られるものがあります。あらゆるものが同時に生起してしまう可能性があります。いつも厳しい警戒態勢をとっておく必要があるため、1隻の艦においては、艦長一人がさまざまな権限を持っていたのでは、いざというときに判断に遅れが生じてしまいます。警戒管制下においてはTAO(Tactical Action Officer)(哨戒長)という士官に権限を集中して、その判断で迅速な対処ができるようにしています。敵のミサイルを探知してから、1~2分間で自艦までミサイルが飛んでくるのが当たり前の世界ですから、そうならざるを得ないと思います。

部隊全体で言えば、戦闘単位の指揮艦(海上自衛隊では通常8艦8機の1個護衛隊群がこれに相当します)は、先に述べた対空戦、対水上戦、対潜水艦戦指揮官並びに電子戦調整官と呼ばれる指揮官(調整官)を予め指定し、そこに権限を委譲しているのです。ビジネスの感覚で言えば、組織長が持つ非常に大きな権限を、2人ないし3人の現場リーダーに委譲しているということになります。そうでなければ、この複雑な状況を戦い抜くことは困難であるのです。

広い洋上における艦隊の行動にもいろいろなものありますが、雑誌や新聞などで見るような航空母艦を中心にして、周囲を護衛艦や巡洋艦が取り巻いているといったものは実際にはありません。それはあくまでPR用の写真です。陣形というものについては、目的が何かによって異なってくるところですが、基本的なオペレーションにおいては、多くの鑑艇が広い洋上に分散しており、直接航空母艦や補給艦を護衛する艦を除いては、ほとんどが1隻だけで行動しているように見えます。広い洋上に何日間も友軍の姿を見ることもなく、水平線だけを見て行動しているのです。また、近代戦においては、レーダーを輻射すること自体が自らの所在を暴露することでもあるため、瞬間的、断続的に使用することはあっても常時使うことはできません。

頼りになるのは人の目と耳だけ、という何とも原始的な状況になってしまうのです。みなさんのイメージとは違うと思いますが、それが、近代戦における洋上の戦いの実態でもあるのです。

しかし、近年では、インド洋上で行われているように一定の海域を通行する船舶に対して、その不法行動を阻止するものや、ソマリア沖の海賊対処など、これまでのものとはまったく次元の異なる任務についている軍艦が多くあります。その多くは、1隻~2隻という小単位で行動することが多く、艦長や指揮官にかかる責任はより大きく、直接的なものとなります。海賊対処などでは、見つけたターゲットを攻撃すればよいというものではないため、艦長はじめ乗組員の疲労、心労はこれまでと比べて想像もつかないほど大きなものがあると思われます。

私は幸いにもそのような経験をすることなく海上自衛隊を去ってしまいましたが、同期生の多くは、これまでと次元の異なる任務を、艦長あるいは部隊指揮官というより重い立場で担ってきた経験をしています。まさに一触即発の状況で、撃つか、撃たざるかの意思決定を迫られ、人知れず膝頭を震わせたという体験談も聞いています。海軍というものの役割、軍艦の役割もしかり、その戦い方もしかりであり、また、私たちを取り巻くビジネスの環境についてもしかりだと思っています。常にその変化に柔軟に対応できるかどうかが、私たちに問われているのだと思います。

▽最後に・・・▽

皆さん、いかがでしたか?今月も楽しんで頂けましたか?

次号も盛りだくさんの内容で皆さまにたくさんの情報をお届けしたいと思います。

是非お楽しみに・・・。

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