今回から、私が数回に分けてこの欄を担当させていただきます。ここに記述する内容は、私がまだある団体においてトレーナーをしていた当時、トレーナー相互の情報交換を兼ねた冊子に3度にわたり寄稿した内容からの抜粋です。そもそもは、その冊子の編集委員だった方から、「紺野さん、海軍のマネジメントって書いてよ」と言われてのことですが、旧帝国海軍など知らない私が、10数年の海上自衛隊での艦隊勤務の中で感じたことを、徒然なるままに「艦隊勤務雑感」と副題をつけて感じているままを書き綴ったものです。全てを掲載しようとするとかなり長くなってしまいますので、その中でも今読んでもみなさんに関心を持っていただけるのではないかと思うものに絞って数回に分けて掲載してみたいと思っています。
昨今、インド洋での補給活動、あるいはソマリア沖の海賊対処など、実際の海外での活動が当たり前のようになった海上自衛隊ではありますが、これを寄稿したときは、隊員の意識の部分は別にして、世の中一般としてまだそこまでの緊迫感のない時代でしたから、今読み返してみても感慨深いものがあります。
また、艦隊勤務を本望として生きてきた私のことでありますが、主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」が混在してまいりますのであしからず)に関することで話を進めたいと思っております。
自らの位置を知る
艦が航海するための航法にはいろいろなものがあります。陸地に沿った地文航法、星や太陽を利用する天文航法、ロラン、オメガなどの電波(双曲線)航法などなど。近年では人工衛星を利用した衛星航法システムが整備されております。
軍事用に開発されたGPS(Global Positioning System)が、漁船のみならず、こともあろうに自家用車の航法システムにまで進化しようとは、船乗りのはしくれであった私には驚くべきことなのであります。それぞれにややこしい理論と理屈はありますが、要は自分の航路を明確にするために、自分の艦の位置をより高い精度で知ることが基本なのです。
船に乗るために最初にたたき込まれることが、この自らの位置を知ること。
このために、船乗りはあらゆる努力を傾けてきました。数学が大航海時代に発達したのも、すべてこのためなのです。科学がこれほど進歩した今日にあっても、どこかで、船が自己の位置を見失って、座礁したり、台風に巻き込まれたりしています。
大型タンカーが座礁して原油流出などの事故が起きるのもこのためなのです。
頭より速く艦を走らすな
艦において次にやかましく言われるのがこの言葉です。当たり前のことですが、海上で事故が起きたとき、必ずといって良いほど、人の頭脳の計算回路より艦や周囲の状況の方が速く走っているものなのです。
普段は、艦長は艦橋(ブリッジ)にあって、ゆったりとした椅子に腰を下ろしており、当直士官と呼ばれる士官が艦長に代わって操艦(責任を持って艦を動かすこと)しています。その当直士官について、「『両舷停止』が口をついて出るようになったら一人前」と言われます。「両舷停止」とは、艦のプロペラ(スクリュー)の回転を左右両方とも止めなさい、と号令をかけることであり、艦を停止させるための命令を下すことです。
すなわち、危急に際して一旦艦の動きを止めて周囲を見回して判断できること、「艦の動きを止める」という意思決定をして、それを明確に指示できるか否かが問われているわけなのです。混雑する東京湾内の航路筋などでは停止するとかえって危ないと思われる場合も少なくありません。
▽次号では・・・▽
皆さん、いかがでしたでしたか?海軍であろうと陸軍であろうと、組織である以上基本的には企業と変わらない部分が多くあります。組織の中での自らの位置を知ることや、迅速に冷静な判断をすることはとても大切ですね。そんな何かを考えるきっかけとなれば幸いと思います。
さて次号では、海軍での「スマート」という言葉についてお話します。皆さん、是非お楽しみに・・・!