第88回:気象変化の予測 « 個人を本気にさせる研修ならイコア

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パートナーコラム 紺野真理の「海軍におけるマネジメント」
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第88回:気象変化の予測

※弊社のメルマガに、以前書かせていただいた「海軍におけるマネジメント(艦隊勤務雑感)」を復刻版で載せてみたところ、意外にもご好評をいただいたため、20年前に書いたものではなく、退職後29年を経過してしまいましたが、現在の私が思い起こして感じていることを書かせていただき、今後のメルマガに掲載させていただこう、などという企みをしております。前回のものと同様に、私のわずかな経験の中で見聞きしたことを、特に明確な意図というものはなく、何とはなしに書いてみたいと思います。「艦隊勤務雑感」という副題も、あえてそのままとさせていただきます。むろん、艦隊勤務を本望として20年間生きてきた私のことであり、主に艦(「ふね」と読んでください。以後「艦」と「船」がごちゃごちゃに出てまいりますのであしからず)や海上自衛隊にまつわることでお話を進めたいと思っております。

 梅雨の季節になって、今年も豪雨による被害などが心配になっているこの頃です。文明の発達した世の中で、先進国である日本で毎年災害が起き、多くの方が犠牲になったり、日常生活に支障を来したりするのを見ると唖然としてしまうところです。梅雨前線に伴う線状降水帯などという言葉が報道等でも聞かれるようになりました。弊社でも、「なんでこんなに雨が降るんですか…?」などと質問を受けるのですが、私としては、わかりやすく説明をしてみるのですが、聞く側にはわかったような、わからないような複雑な反応が返ってきます。気象用語を使って説明をしたところで、一般的な認識としてはわからなくて当然であるのですが、結論から言えば、集中して大雨の降ること、強風の吹くことを正確に、タイムリーに予測することは一般的にはまだまだ困難というのが現状のようです。

 その昔、台風の進路が予測できないことで多くの死者が出たことをきっかけとして、富士山頂にレーダーを作ろうと考え、それを実現させた人々もいました。現在は富士山頂レーダーも必要がなくなり、衛星情報でほぼ正確に進路予想ができるようになっています。しかし、進路が予測できても大きな災害につながることは現在でも変わらないようであり、2019年の台風15号、19号による災害はみなさんの記憶にもあることと思います。15号のときは、31,000戸の住宅に被害が及び雨も降りましたが、その前に強風によって千葉県内において高圧電線の鉄塔が倒れて広域の停電を起こしたり、ゴルフ練習場のフェンスの支柱が倒壊して隣家に被害を与えたり、また民家の屋根が吹き飛ばされたりもしていました。19号の際は、長野県で千曲川が氾濫して、付近の新幹線車両基地において多くの車両が水没してその後の運行にも大きな支障をきたすことにもなりました。

 護衛艦乗りであった私が気象の変化に敏感であることは当然のことでもあります。特に洋上において台風に遭遇すれば、どんな進路で進むのか、そのまま航海を続けるのか、以後の訓練がどうなるのかは喫緊の課題でもありました。航海長という配置を二度にわたって経験しており、天候の予察は自身の仕事、役割であったため、大いに研究し勉強もしたところでした。停泊中であっても、荒天が予想されれば、すぐに艦に戻って避泊(台風を避けて沖合に錨を入れて停泊すること)の準備をするため、台風が近づくと家族を残して艦に帰ることを当然のこととしていました。2か月間も洋上にいると、台風に遭遇することはよくあることで、そのたびに海上模様の変化に伴う脅威というものを実感していたものです。今はわかりませんが、私が現役のころは最新鋭艦といえども士官室の中には、自記気圧計というものがあって、その時点での気圧がペンで自動的に記録されていたものです。台風や低気圧に接近すれば面白いように気圧計の針は下降し、通過すればあっという間に上昇するのは当たり前のことではあるものの、初めて艦に乗り組んだころには、ある種の感動をもって見たことを覚えています。

 地球温暖化とか、異常気象と言われ始めてからかなりの時間が経過していますが、もたらされる被害というものは単に雨がたくさん降るとか、風が異常に強く吹くといった気象状況によるものだけでなく、治水のあり方や人間の生活場所等人為的な面でも災害を大きくしている要素があるようです。大水害の後には、「ダムがあれば大丈夫だったのに」とか、「ダムをつくってもその許容量を超えたら同じだ」といった水掛け論と思われるものも聞かれます。東日本大震災の折にも防潮堤が役に立つ、役に立たないといった議論も聞かれました。ただ、被害を大きくする要因というのは必ずしもひとつではなく、さまざまなものがあると思います。大雨による川の氾濫による洪水、高潮によるもの、更には地盤の緩みによる土砂崩れ、がけ崩れ、土石流、地滑りなどもあります。また、強風による施設、家屋の倒壊もあり、気象変化が直接原因ではありませんが、地震とそれに伴う津波や火山の噴火など、ありとあらゆることが想定されてしまいます。100年に一度起こるか起こらないかわからないことに大きな予算をかけて備えることについての合理性についても議論されているところです。

 気象予測の精度が格段に向上している今日において、災害は減るどころか反対に増加しているといった印象さえあります。もちろん、予測の精度は向上したものの、それはわれわれの生活する場所、形態がさまざまなものとなっているためとも思われます。それまで人が住むことのなかった山あいを開発して住宅を建設し、そこに土石流が発生したという災害もありました。昨年には九州の球磨川が溢れた浸水のニュースも記憶に新しいところですが、水害のリスクの高い地域の人口が増加しているということも事実なのです。ハザードマップ上の浸水エリアであっても、そこに自治体が住宅開発を後押しして開発がなされてもいます。これまで洪水がなかった、高い堤防ができたという安心感などもその状況を招いているとも思われます。どのような要因が影響するのかということについて、考慮すべき変数が、これまでの想定以上に増えているということなのでしょうか。

 本年3月、日本企業所有のコンテナ船「エバーギブン」がスエズ運河で座礁して通航を止めてしまったというニュースもみなさんの耳に新しいことと思います。基本的には船の運航上の問題として語られることとは思われますが、私としては、必ずしもそれだけで終わってほしくないという印象を持っています。「エバーギブン」を所有している正栄汽船は、座礁の原因を「砂嵐による視界不良など急激な天候の変化があったと推測している」と報道されています。現場周辺は遮るものがない砂漠地帯で、強風が吹けば砂を巻き上げ、視界は極端に悪くなっていたようです。デッキの上に何層ものコンテナを積んでいるだけに、大きな船があたかも帆に風を受けたような状態になり、操船の可否を超えて方向が変わってしまった可能性も否定できないということです。ここでも急激な天候変化という一次的な要因に対するコンテナ船「エバーギブン」の操船上の原因が重なったということになると思われますが、そのような異常な天候変化に対しても対応できるようにしておくことが求められることであり、われわれが配慮し、対処しなければならない範囲が極めて大きくなっていることなのだと感じています。船の事故というニュースに触れると、元護衛艦乗りであった私には、他の多くの災害に関すること以上に、強く感情移入してしまうことなのかもしれませんが、単に人為的なミスというだけで片付けたくはないという意識があるのかもしれません。

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